2023年1月初旬。国立科学博物館 副館長であり、特別展「恐竜博2023」監修者である真鍋真先生へのインタビューが実現し、「恐竜博2023」開催2か月前の科博へお邪魔してきました。
その内容を、シリーズとして全3回に分けてお送りしています。
過去のおはなし
最終回である第3回の今回は、探究舎のInstagramで募集した読者からの質問「真鍋先生へ聞きたいこと」に、先生が回答してくださいました!
>特別展「恐竜博2023」のプレスリリース情報はコチラから
質問1 「恐竜に関わる仕事」をしたく、進路に悩んでいます。
自分のことであっても「本当好きなのか」って、なかなかわからない。
真鍋先生
「これは自分を振り返ってみてもなんですが。中学生や高校生の時に好きだったことが、必ずしも職業として結びつくかは、わからないのではないかな、と思います。
恐竜が好きなら『古生物学者になる』とか『大学院で勉強する』っていうのは1番シンプルな答えです。ただ、『研究する』っていうことは、『本当に研究そのものも好きなのか』『向いているのか』っていう問題もあって。これは本人がやってみないとわからないじゃないですか。
それに本人がどれだけそれを楽しんで、やる気を継続できるものなのかって、やってみないことにはわからないんですよね。だから、『とにかくやってみるっていうことしかない』と思います。
恐竜に関わる仕事にも、『恐竜の骨格を作る』とか『展覧会をデザインする』とか、色々な仕事があります。
そうそう、▼これは恐竜博2019の時に出した書籍なんですが、
恐竜博に関わってくださった、色んな職業の方を紹介しています。
様々な仕事があるので、「どれをやってみたいかな?」と考えてみる、ちょっと挑戦してみるってことが、第一歩だと思いますね。
『恐竜の研究者』と言っても、そんな何百人もニーズがあるわけではなくて。博物館に勤められる人数にしても、非常に限られているんですよね。「毎年10人募集してます」とか、「新入社員募集してます」みたいな世界じゃないですし、そのための学校や養成所があるわけでもありません。そういった意味では「ここに行けば大丈夫だよ」みたいなことはないんですよね。
でも、試しに古生物学が学べる大学や大学院に行ってみて、ちょっとやってみて「自分が本当にこういうことやりたいのか」考えたり、「自分は向いてるのか」試してみたり。『とにかくやってみるしかない』と思うんです。自分のことであっても「何を本当にやりたいのか、好きなのか」って、なかなかわからないじゃないですか。
あと大人な話になってしまいますけれども、例えば先生や先輩後輩との相性、卒論や修論がうまくいくかいかないか、みたいなこともすごく大きいですよね。そういう『自分だけじゃない要素』っていうものも沢山あるので、とにかく「やってみる」っていうことに尽きると思うんです。
ーただ、僕が自信を持って言えることが1つあって。これは、いろんなところに書いてるんですけど。
僕も若かった時には、例えば大学生とかが「自分は恐竜がこんなに好きで、研究をしたいから指導してほしい」とか言ってくる。10人来れば10人そういう風に言うんですよ。
でも、最初の5年や6年の頃に、自分のことなんて何もわからないじゃないですか。だから、いかに恐竜が好きだって言われても、「みんなそうだよ」と思って聞き流してたんですけど^^;。
でもね、そのあと。教え子や、ちゃんとその後研究者になって頑張ってる子たちを見ていて気付いたのが、
『なにかにどうしてもうまくいかないことにぶつかった時』ですね。
その時にその背中を押すものっていうのが、『子供の頃、自分はこれが本当に好きだった』っていう、強い思いだったりするんだって事に気がついたんですね。
恐竜に関わるにも、例えば展覧会のデザインをするとか、絵を描くとか、フィギュアを作るとか、色々な仕事があります。ぜひ、どんなものがあるのか知り、自分は何をやりたいのか、何が自分にあいそうなのか、いろんなことをやってみてくださいね。
質問2 先生はどのような場面で「温暖化」を感じますか?
6600万年前の出来事は、現在起こっている深刻な問題とも繋がっている。
真鍋先生
「そうですね。『昔はこんなにあったかくなかった』とか、『夏がこんなに暑くなかった』とか、そういう経験でしょうか。小さいお子さんや、10年や20年といった人生の短い期間だと大きな変化はあまり感じられないかもしれませんが、私が小学生の頃には、山手線や中央線が雪で止まって学校が休みになったこともありました。今ではそんなことはめったにありませんよね。
同じように、今の私たちがいる環境は、10年や20年だったらそんなに大きく変わらないかもしれません。でも、恐竜が隕石で絶滅してしまったことを知っている皆さんなら、6600万年前の遥か昔の出来事が、現在起こっている深刻な大量絶滅の問題とも繋がっていることを理解できると思います。その重要性や深刻さを理解してもらえると嬉しいです。」
質問3 真鍋先生がワクワクするポイントを3つ教えてください。
真鍋先生:「3つですね。うまくまとめられるかわかりませんがお話してみましょう。」
「わかる」ということ
真鍋先生
「例えば自分が何か化石を見つけて、『これはなんだろう』『知りたい』と思いますよね?
それで、色々調べて、例えば『あ、これは上腕骨の腕の化石で、形から見てみるとティラノサウルスだな』みたいに『あ、わかった、そうだったのか』とわかる、そういう瞬間ですね。
それは別に化石採集の時だけでなく、例えば博物館の収蔵庫の中でも起きます。『あ、これってもしかしたらあれなんじゃないかな』『わかった。そうだったんだ!』と。その瞬間がすごく楽しいです。」
共有し、共に楽しむこと
「例えば僕が、『この化石はこういうものだと思います』と言ったとします。
それを人に伝えた時に、周りの人が『うん、真鍋君の言ってることわかる、自分もそう思う』って言ってくれるのか、「いやいや、全然違うよ」と言われるのか。
違った場合、その瞬間は面白くないと思うんですけど、でもそうやって気づくこともありますよね。周りの人たちと共有するときって、沢山の気づきがあったり、喜びがあったりするなと思うんです。
その相手が友達でも、親兄弟でもいいんですけど、自分だけがにんまりしているんじゃなくて、周りの人と分かち合うことが面白い、楽しいと思います。
とくに僕のような立場にいると『僕がこれは面白い』と思った時に、例えば博物館の常設展示や、恐竜博みたいなものを通して、不特定多数の方と「これって面白くないですか?」とか「これ重要だと思いませんか?」っていうようなことをやってお話できる機会があります。
そういった意味では、もっと広くいろんな方と、共に楽しむ、一緒に見る機会があるので、そんな楽しみとか喜びとかがあったりするなと思いますね。」
言葉のキャッチボールをすること
「例えば今日みたいな取材の時でも、お話していてご質問をいただいたり、『それじゃあわからない。納得できないな』なんて言われることもあるんです。
そうすると、僕はそこから『じゃあどういう風にお話ししたら、もっと分かってくださるのかな?」とか、「僕の思いや考えは通じるのかな』みたいなことを、色々考えます。
そうするとそこから『あ、今度はこうやってみよう』なんて新しい発想に繋がるっていうことも沢山あるんですよね。
それで、僕はよく『人と言葉のキャッチボールをする』っていうんですけど、それをしていると、その間に『あ、これは面白そうだな』とか気がつくこともあるんですよね。そういうところの『発展性』みたいなところも、楽しいところなのかなと思っています。」
探究舎「ありがとうございます」
真鍋先生「質問してくださった皆さんに納得頂けるといいのですが(笑顔)」
<第2回に続きます>
真鍋先生の書籍のご紹介
沢山の書籍を書かれ、監修されている真鍋先生ですが、とくに特別展「恐竜博2023」前に読んでおくのにおススメの書籍をご紹介します。
小学生くらいのお子さんから読めます。恐竜博2023でもレプリカ展示が決まっている(真鍋先生がアルゼンチンでの発掘隊で発掘された)新種の肉食恐竜「マイプ」については、こちらに書かれています。
「恐竜博2019」の際、舞台裏で活躍された様々な職種の方々にスポットを当てて紹介されています。骨格標本を作る人、恐竜博の舞台を作る人、PRをする人…など、「こんな職業があったのか」と大変興味深かったです。